2025.06.09
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匸P　　コーヒーブレイク　

　　　　　僕には鳥の言葉がわかる

　　　　　　　　　鈴木俊貴 著　　　　　小学館　　　2025.01.28
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　筆者は2022年7月末、ストックホルムで開かれた、国際行動生態学会(ISBE2022)で、
1時間の基調講演をした。5度目の参加であったが、今回は超VIP待遇の招待であった。
　いつしか、シジュウカラ語の論文が、世界中で高く評価され注目されていたからだ。
　この場で筆者は、世界の動物行動学者たちに「動物言語学」の創設を提唱した。
　僕がシジュウカラ一種の言葉を調べるだけでも15年以上の歳月がかかった。
　動物たちの言語をもっと広く調べるには、ひとりではどうにもならない。それなら
この講演で、世界中の研究者たちに、動物の鳴き声の意味や文法能力を探るための
具体的な研究方法を伝えれば、きっとかれらも同じように調べてくれるに違いない。
　｢動物たちの豊かな言葉の世界を、共に解き明かそうではないか」と締めくくると、
拍手は鳴り止まず、握手を求める長蛇の列は、45分も経っても耐えることはなかった。
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　筆者が聴衆に伝えたかったのは、シジュウカラが気付かせてくれた最も大切な観点、
人間だけが言葉を持つ特別な存在ではないということだった。
　人類は生物界の頂点に立っていると思い込み、いつしか自然界で何億年も使われて
きた動物たちの言語の意味が理解できなくなり、井の中の蛙になってしまった。
　井の中にいる蛙は餌がないので死んでしまう。それが人類の未来だ。そのことに
気付いた僕が、人類を救出せねばならない。
　2016年に｢ダーウィンが来た」に出演した筆者をご覧になった方も、多いと思う。
　1983年生まれの筆者は、大学4年生の冬、卒業論文のために軽井沢の森に籠もった。
　このときは食事の配分を誤った。残り3週間で、食糧はコメだけとなってしまった。
　朝はコメ、昼は湯コメ、晩は水コメを食べてしのいだが、8kgも痩せてしまった。
　それでも切れ目なくシジュウカラを観察し続けた。そんな日に、森で3週間に一度
遭遇する森林案内のヤナギハラさんに出会った。痩せこけたトシタカの姿を見かねた
彼女は、キャベツ一つを差し入れてくれた。それをすぐに食べるのではなく大切にして、
研究完了日のご褒美にした。研究を無事に終えた最終日、料理した炒めキャベツ２皿、
千切りキャベツ2皿が並んだ食卓は、まるで王様の食卓のようであった。
　研究室の長谷川博先生は、トシタカヤセタカ、トシタカヤセタカと話しかけてくれた。
　それから毎日午後4時に、筆者を誘いに来て、命の飲み物ビールを飲ませてくれた。
　長谷川先生は、父島に通い絶滅寸前のアホウドリを救出した研究者で、火山島の
父島だけでは再び絶滅する恐れがあるので、聟島にも繁殖コロニーを再生させた人だ。
　天敵がいないので人間から逃げず、簡単に捕獲されたので、アホウドリと呼ばれたの
だが、長谷川先生はこの鳥をオキノタユウと改名すべきだと提唱している。
　ある日、筆者は長谷川先生に、なぜアホウドリの研究をすることになったんですかと、
尋ねたことかある。返ってきた答えが印象的だった。「だって可哀想じゃない」
　戦後、コメの増産で、過剰に農薬が使用され、水田にいたドジョウやタニシが激減し、
日本の空のどこにでもいたトキが絶滅してしまった。しかたなく中国からトキを譲り
受け、佐渡で繁殖に取り組んで群れの復活に成功した。今は本土での繁殖も計画され、
数年後に能登半島で数羽のつがいを放鳥する予定だ。コウノトリがいる豊岡にも
飛来してくれるかもしれない。トキと共生できるような水田環境の整備が待たれる。
　本書は平易な啓蒙書で、装丁は名久井直子さん、挿画は、100% ORANGEの及川賢治と
竹内繭子さんによる。可愛いシジュウカラたちのイラスト満載で、双眼鏡の先に、
コガラ、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、ゴジュウカラの可愛いイラストが並ぶ。
　©100%ORANGE2012に帰属するので、無断複写(コピー)、上演、放送等の二次利用、
翻訳等は、著作権法上の例外を除き禁じられている。巻末に特別付録QRコード
「シジュウカラの鳴き声を聞いてみよう」がある。鳥たちが驚かないように、音声を
聞く時は、室内で音量に注意して聞いてくださいと注意書きがしてある。
　ここにあるシジュウカラ語の言葉と構文は以下の7つだ。
　｢ツツピーツツピー｣　　縄張り宣言
　｢ヒヒヒ｣　　空にタカを見つけたときの声
　｢ビビビビビ｣　　餌をねだるヒナの声
　｢ジャージャー｣　　「ヘビ」という意味の名詞
　｢ピーツピ｣　　「警戒しろ」という意味の声
　｢ヂヂヂヂ｣　「集まれ」という意味の声
　｢ピーツピー・ヂヂヂヂ｣　　「警戒して・集まれ」という構文
　メスは5月始めに一日に1個づつ、8～12個くらいの卵を生む。必ず全部生んでから
抱卵を始める。一斉に巣立つようにするためだ。7月にもう一度抱卵することもある。
　生後17日のヒナたちでも、｢ジャージャー｣を聞くと、ヘビの来襲と分かり、一斉に
巣から飛び出す。ヒナは巣立つと1月ほどは親鳥に面倒をみてもらって成鳥になる。
　上記の7番目が、ひとつの単語ではなく、構文であることを確かめる実験がすごい。
　録音機でこの音声を編集し、ヂヂヂヂ･ピーツピーという自然界では存在しない声を
作り出した。これをスピーカーから聞かせると、シジュウカラは反応しなかった。
　ピーツピー･ヂヂヂヂと、正しい語順で聞かせると、集まってきた。
　シジュカカラは文法に従った語順を守っている。ヘビという名詞も知っている。
　混群で生きるカラ類も、互いに非常によく似た言語を使っている。
　筆者の手元には200パターン以上の音声ファイルがあるそうだ。それぞれが意味を
持つ声らしいが、"思考節約の原理"により、これが言葉であるとしか解釈できない
証拠を見つけるまで論文にはできない。"思考節約の原理"とは、できるだけ少ない
仮定で現象を説明するよう努める科学の鉄則をいう。オッカムの剃刀ともいう。
　科学的な探究はとても厳密に進められ、根拠のない好き勝手な解釈は否認される。　
　従って現段階は、筆者「僕」以外はまだ鳥の言葉は分からない。
　しかしひょっとすると、シジュウカラ語が分かる人間は複数いるかもしれない。
　ある年以後、軽井沢での観察者が｢僕」だけでなく、ふたりになっているからだ。
　観察者がふたりなら確実性が増すと断っているが、シジュウカラに似る筆者が、
つがい行動を始めたのかもしれない。"思考節約の原理"に反する単なる私の憶測だ。
　シジュウカラにはシジュウカラの言葉がある。ヒトにはヒトの言語がある。どちらも
動物の言葉の一つであると考えることが、進化学的に正しい。どのような条件で単語が
進化したのか、どのような条件で文法が進化したのか、生物進化の問題については、
ヒトを含む複数の動物種を比べることで、初めて真理に近づける。
　これまでの研究者は、言語は突如として進化した人間に固有の性質だと考えてきた。
　そして、動物たちの鳴き声やしぐさは、単なる感情の表れであると決めつけてきた。
　しかし、誰も気付かなかった観点だが、生物の進化は長い時間をかけて、少しずつ
変異が積み重なって生じたものだ。言語やしぐさという伝達手段においても、
人間だけが突然進化したとは考えにくい。通常、突然の大きな変異は生物の進化の
過程で淘汰されてしまうからだ。どんなに精巧な形や性質も、ゆっくりとした変化の
組み合わせから進化したと説明できる。
　言語も一見複雑にみえるが、複数の"認知能力"により成り立つものだ。
　つまり、音声をまねる力や音声からその指示対象をイメージする力、文法のルールに
則って単語を組み合わせる力など、さまざまな力を用いて、人間は"言語"という
コミュニケーション・ツールを使っている。日本語や英語といった表出された言葉を
動物において見いだすことはできないとしても、それは、人間がシジュウカラ語や
ヤマガラ語を話さないのと同じことだ。フィンランドのシジュウカラが登場しているが
日本の鳥と同じ行動を取っていた。大切なのは、それを生み出す認知能力、言語の
使用にかかわる認知能力に着目することであり、そうすれば人間とその他の動物にも
共通点がみられるはずだ。「集まれ」という言葉を、シジュウカラは｢ヂヂヂヂ｣と
発音する。同じカラ類でもコガラは「ディーディー｣、ヤマガラは｢ニーニー」と
発音する。しかし混群で行動するカラ類の鳥たちは、これらを同じ「集まれ」だと、
お互いに意味を学習して理解できているのだ。
　天敵のタカやモズが近づいてこないかと、顔を上や周囲に向けて危険を察知する
回数は、一羽より数羽でサーチした方が確実に少なくて済む。サーチ回数が少なくて
済むと、それだけ餌をついばむ時間を多くとれる。ほかの鳥に餌のありかを教えるのは
天敵から身を守り、効率的に餌を食べるための行動であった。種を越えて｢集まれ」を
理解するようになったのは、カラ類だけではない。リスも、シジュウカラが発する
タカ来襲の警告語｢ヒヒヒ｣を聞くと、あわてて藪にダッシュする。
　小鳥の目はリスよりも良い、リスたちはそれを知った上でカラ類の群れ近くにいる。
　数十万年前、私達の祖先がアフリカで暮らしていた頃、人間もリスのように鳥の
言葉を理解していたに違いない。生まれて間もない赤ちゃんを猛禽類や肉食獣から
守るためにも、鳥の言葉が役に立ったはずだ。しかし、いつしか人間は、自らが持つ
｢言葉｣によって、自然と人間を切り分けていった。「人間は最も高度な動物だ」と
思い上がってしまった。勝手に鳥や動物には言葉がない、鳴き声は、単なる感情表現に
過ぎないと決めつけた。そしてとうとう鳥や動物たちの言葉を理解できなくなって
しまった。生き残るためにしていた自然との共生は忘れられ、自然は人間が利用する
ものに変わってしまった。ESG(環境、社会、ガバナンス)、SDG's(持続可能な成長)は、
人間たちの警鐘だが、このまま動物たちの言葉を理解しない生き方をしていると、
人類も地球も滅びるだろう。鳥たちの言葉の世界と、人間の言葉の世界をつなごう。
　そしてもう一度、自然を正しく観察する目を人類にインストールしよう。
　そうした思いで生まれたのが本書であり、動物言語学の創設であった。
　2025年、英・動物行動研究所(Association for the Study of Animal Behaviour)は、
最も栄誉ある国際賞を、筆者に贈呈すると知らせてきた。この賞は行動生態学の権威、
ニコラス・デイビス博士、ジョン・クレブス博士、リチャード・ドーキンス博士らが
受賞しているが、日本人では初めてとなる。
　筆者は高校生の頃、動物行動学の本を愛読していた。コンラート・ローレンツの
｢ソロモンの指輪｣、ニコラス・ティンバーゲンの｢鳥の生活｣、カール・フォン・
フリッシュの「ミツバチの不思議｣などだ。これらの本を書いた諸先輩と並ぶ名誉な
受賞だ。100年前に生まれていたら"遊び"と言われていたことが、今では"学問"に
なっている。学者になれば、一番好きな動物の観察をして過ごしていけるかもしれない。
　この時代に生まれて良かったと筆者は思った。そして鳥の研究ができる大学に進学し、
研究者を目指す決意を固めたという。ローレンツはハイイロガンの刷り込み、
ティンバーゲンはトゲウオの婚姻色、フリッシュはミツバチのダンスを研究対象にした。
　筆者は、大学に進むと、生涯をかけて解き明かしたいと思えるような、夢中になる
テーマを探した。そして観察したことを何でもフィールドノートに書き込んでいった。
　鳥の食べ物や巣作りの仕方は、誰にでも観察できる。そうではなく、誰も想像すら
していない未知の世界があるはずだ。そんな世界を探究したいと思っていた。
　そして大学3年の冬、運命の出会いがあった。一人で中軽井沢のバス停から雪道を
歩いて約1時間、ようやく宿に到着してから、双眼鏡を片手に森に向かった。
　ひんやりとした空気の中、鳥たちの声はいきいきと響いていて、いつしか鳥たちの
群れの中にいた。カラ類を中心に、コゲラ、アカケラといったキツツキ類まで加わって
大きな群れをなしている。鳥の群れは徐々に森の奥へと移動していった。すると
30メートルほど前方から「ディーディーディー」と甘えたような声が聞こえてきた。
　コガラの鳴き声であった。驚いたことに、そこに、ヒマワリの種がまかれていた。
　どこかのバードウォッチャーが撒いたものだろう。コガラはそれを見つけて鳴いて
いたのだ。その声に誘われるように、コガラが3～4羽、シジュウカラが5～6羽、
ヤマガラ2～３羽、ゴジュウカラ2羽が集まってきて、そして皆でヒマワリの種を
ついばみ始めた。あの声は混群の仲間を呼ぶために鳴いていたんだと思った。
　自分の餌を独り占めにせず、どうして仲間を呼ぶのだろうと不思議に思った筆者は、
ヒマワリの種をひとつぶ残らず回収して、数分歩いて、適当な切り株をみつけ、そこに
ヒマワリの種をまいた。そして鳥たちが来るのを待った。足踏みしながら1時間ほど
寒さに耐えながら待っていると、ようやく鳥の群れが近くまでやってきた。その中で
一羽のシジュウカラがヒマワリの種を発見し、「ヂヂヂヂ」と鳴き出した。すると
今度はコガラとヤマガラが集まってきた。ほかの鳥たちが集まると、シジュカカラは
鳴くのをやめた。そして一粒を取って、枝の上でつつき始めた。
　夢中になって観察していると、今度は｢ヒヒヒ」と鋭い声が響いた。
　その直後、ヒマワリの種を食べていた鳥たちが一斉に茂みの中へと飛び去った。
　「！？｣と思った瞬間、何かが、すごいスピードで餌場をかすめていった。ハイタカ
だった。筆者は、ものすごいことに気付いてしまったようだと思った。
　「鳥たちは、餌の場所も、天敵の来襲も、鳴き声で伝えあっているのかもしれない」
　1週間の滞在を終えた時、フィールドノート80ページ丸々2冊を使い果たしていた。
　カラ類の鳴き声のバリエーションは、驚くほどに多かった。中でもシジュウカラの
レパートリーは群を抜いていた。｢ヂヂヂヂ｣「ヒヒヒ｣「ツピー｣｢ヒッヒッ｣｢チッチッ｣
など、実に多種多彩であった。その時はレコーダーを持っていなかったので、カタカナ
表記しかできなかったが、ひょっとしたら鳥たちの鳴き声には、いろいろな意味が
あるのかもしれないと思うようになっていた。生涯をかける研究テーマが見つかった。
　翌年は、国有林の中に多くの巣箱を設置して、繁殖の様子を観察することにした。
　そのためには、国有林の使用料、巣箱を作る材料費、それに長期滞在費がいる。
　帰宅してから、幼少期の得意技を生かしてバッタを捕獲するバイトをした。この
資金を使って、材料を買い、シジュウカラの巣箱40個を手作りした。
　巣箱の大きさは底面12cm四方とし、10数羽が一度に生まれるシジュウカラのヒナが
十分入れるようにした。高さは25cmで上の蓋は蝶番で開閉式にした。巣の入り口は
直径28mm、底には雨が溜まらないように直径10mmの穴を開けた。
　翌年、巣箱を設置してから分かったのだが、ホンドテンが入り口をかじって侵入口を
広げようとした形跡があった。そこで、金属製の板を追加して貼り付けた。さらに軒を
延ばしてホンドテンの手が穴まで届かないようにし、内側に板をつけてテン対策を
万全にした。またツキノワグマが、パンチ力で巣を叩き落とさないよう、シュロ縄で
ぐるぐる巻きにして幹に固定した。幹の下部には、プラスチック板の｢ヘビ返し｣を
付けた。「僕の考えた最強の巣箱」は、解説付きのイラストで見ることができる。
　卵から孵化したばかりのヒナは、か弱い声で｢チリリー」と鳴く。餌をくくわえて
巣に入った親鳥は、｢ググッ」と聞こえるユニークな声をだす。するとヒナは天に
向かって大きな口をパカッと開ける。目が開いていないヒナも、この親鳥の声によって
餌を食べられる。6～7日して羽が生えかけたヒナは「ビビビ！｣と鳴いて餌をねだる。
　一度の訪巣で餌をもらえるのは1羽だけだ。親鳥は、オスもメスも交代で餌をくわえ
巣にもどってくるが、たまに同時に巣の前に来ることもある。その時はメスが翼を
バタバタさせてお先にどうぞのジェスチャーをする。オスが先に巣に入り、ヒナの
糞をくわえ遠くに捨てに行くのを見届けてから、メスが巣に入っていく。
　しかし子育て中に、ヘビが巣箱に入ってしまうと万事休すだ。親鳥は、ヘビが接近
すると、鋭く｢ジャージャー」と鳴く。するとヒナたちは一斉に巣箱から外へ飛び出す。
　逆に、ハシブトカラスが飛来した時は、ヒナが外に出ると捕獲されてしまう。
　この時親鳥は、｢ピーツピー｣と鳴く。この声を聞くと、ヒナはじっとうずくまって
動かなくなる。やがてハシブトカラスはあきらめて去っていく。
　しかし、"思考節約の原理"に照らして｢ジャージャー」がヘビを意味する言葉だと
十分に主張するためには、さらに突っ込んだ証拠が必要であった。
　シジュカラは特別な恐怖を感じると、その感情で｢ジャージャー」と鳴くのかも
知れない。ヘビという名詞を意味するとまでは言い切れないのではないか。そうした
反論に対して明確な回答、証拠を見つけなければならない。小鳥の脳をスキャンする
装置はまだ世の中に存在しない。シジュウカラが脳内で描くヘビのイメージは、どう
すれば証明できるのか。筆者は来る日も来る日も、毎日のように考えた。
　考え抜いて2年以上が経ったある日、突然ひとつのアイデアが頭に浮かんだ。
　その日は珍しく午前中に調査が終わり、昼過ぎには森から宿に戻っていた。
　部屋の窓を開け、五月のさわやかな風を感じつつ、こんな日はごろ寝に限ると横に
なろうとしたその時、突然、頭に閃光が走った。外へ駆け出し、あたりを見回し、
20cmほどのまっすぐな"木の枝"を見つけて手に取って確信した。これだ！
　筆者が考え抜いた末にたどり着いた証明は、実にエレガントなものであった。
　森のシジュウカラは"木の枝"を見慣れている。これを、ヘビと誤認させることは、
恐らく可能だろう。木の幹に"木の枝"をつるし、シジュウカラの飛来を待つ。そして
飛来してきたらスビーカーから｢ジャージャー」を流す。直後にそっと"木の枝"を
上に引きあげる。シジュウカラは、上に向いて移動する"木の枝"をヘビだと誤認するに
違いない。そして"木の枝"に近づき、ヘビでないと分かると、周囲のどこかに本物の
ヘビがいるのではないかと枝や地面をキョロキョロ探す。この誤認は1度しか起こらず、
2度目にはもう驚かない。また"木の枝"を振り子のように揺らした時は誤認しない。
　これが実験の一部始終であった。この森で生まれたシジュウカラの脚には、識別用の
脚輪をつけてあった。だから、個々のシジュウカラが、1度しか誤認しないことを証明
することができた。"木の枝"による実験は世界を変えた。アリストテレス以来、2000年
以上に渡って信じられてきた｢動物は言葉を持たない｣という固定概念を、打ち砕いた。
　シジュウカラは、視覚的なイメージで、ヘビを認識し、この声を発していたのだ。　
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　動物の研究者は、研究対象の動物に似る。観察しているうちに仕草が似るらしい。