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匸P コーヒーブレイク
ロシアン・ルーレットは逃がさない
プーチンが仕掛ける暗殺プログラムと新たな戦争
From Russia with Blood,2019
The Kremlin's Ruthless Assassination Program and Vladimir
Putin's Secret War on the West
Heidi Brake著 加賀山卓朗訳 光文社 2020.10.30
ハイディ・ブレイク
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本書はボリス・ベレゾフスキーと、ジョージアの盟友バドル・パタルカチシュビリ、
ボリスのフィクサーでイギリス人のスコット・ヤングたちが暗殺されるまでの物語だ。
取材対象に取り上げられたロシア人は、毒殺、射殺もあるが、ほとんど心筋梗塞、
自殺、自動車事故等で変死しており、殺害の痕跡も残っていない。ただひとつ共通
するのは、寿命にしては早すぎる死だということだけだ。
14人もの死者が出てから、西側首脳はプーチンの実像に気づきG8から追放した。
映画や小説なら最後に悪者が倒されスッキリするのだが、マフィア国家ロシアの
物語は現在も進行中だ。事実をつかんだ取材記者や弁護士も容赦なく殺害された。
直近もナワリヌイ氏が逮捕収監された。冒頭謝辞に「日々命がけで真実を求めて
いる勇敢なロシアの独立メディアの方々にも本書を捧げたい」とあった。
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2016年1月、イギリス王立裁判所のサー・ロバート・オーウェン判事は、ゆっくりと
区切って言葉を発した。「疑いの余地なく、アレクサンドル・リトビネンコは、
ルゴボイ氏とコフトゥン氏によって毒殺されました。ルゴボイ氏がリトビネンコ氏に
毒をもったのはFSB(ロシア連邦保安局)の命令によるものである可能性が非常に高い
という結論に達しました。また、コフトゥン氏についてもFSBの指示のもとで動いて
いたという結論に達しました。さらに、FSBによるリトビネンコ氏の殺害計画は、
おそらく当時FSB長官だったパトルシェフ氏によって許可されたという結論に達し
ました。そしてまた、プーチン大統領によって」
傍聴席から「そうだ！」という叫びが響いた。
オーウェン判事は判決文で、ロシアで300人近い死者を出したアパートメント爆破
事件は「チェチェン紛争を正当化し、ひいてはプーチン氏の政治的立場を高める
ことを目的としてFSBが仕組んだものというリトビネンコの執筆した本(※2002年3月
発刊「ロシア闇の戦争」）は、綿密な調査に基づく仕事だったこと、またタムボフ・
ギャングとKGB職員は手広く結託し、当時職員だった、ウラジーミル・プーチンと
ニコライ・パトルシェフも結託していたとの疑惑を、リトビネンコが集めていた
ことも紹介した。さらに判事は「プーチン大統領の主要な敵は、たとえロシア国外で
暮らしていても暗殺の危険にさらされている」とも述べた。
328ぺージに及ぶこの判決文は、公開審理の記録や何千ページに及ぶ証拠とともに、
ウェブサイトに公開された。
本書で扱われた亡命ロシア要人の連続殺害事件は、イギリス政府の意識的無作為に
よって自殺と見做され、ほとんど報道されなかっが、アメリカのハフィントンポスト
(現ハフポスト）配下のネット・メディア「バズフィード・ニュース」が連載記事に
して殺害された可能性が高いことを暴いた。本書は時系列で事件のあらましを詳述
しているが、次々と登場する良く似たロシア人の名を覚えるのにとても苦労した。
順不同だが、私が整理した(人物解説)を参考に末尾に添付する。
犠牲者は、あまりにも多人数で、本文より長くなってしまった。
ソチオリンピックが終わった直後の2014年3月、プーチンはいきなりウクライナの
クリミア半島を占領し、親ロシア武装勢力が、オランダ発マレーシア行きの旅客機を
撃墜した。乗客283人、乗員15人が犠牲になり、中にはイギリス人乗客10人がいた。
2014年12月、「バズフィード・ニュース」に就職した筆者とその仲間は、殺された
リトビネンコの未亡人・マリーナさんから思いがけない電話連絡を受けた。
上記裁判がまだ結審せず進行中の頃だった。彼らはリトビネンコが生前から
保管整理していた豊富な資料を閲覧し、急速に調査の網を絞ることができた。
マリーナさんは自費を投じて私立探偵を雇い、独自調査を続け裁判にこぎつけた。
判決直後、マリーナさんは内相から「行動を約束する」手紙を受け取ったと明かし
「首相が何もしないということは考えられません」とつけ加えて法廷の石段をおりた。
テリーザ・メイも判決直後に、対処を確約した。しかしそれでもなお西側首脳は
経済面でロシアの反発を考慮し強い対処に出ることはなかった。
表題を直訳すると「ロシアより血を込めて」だが、ロシアンルーレットは、
リボルバー拳銃で頭をぶち抜かれる恐怖が感じられ、邦題の方がより無気味だ。
昨年アレクセイ・ナワリヌイ氏が毒をもられ、モスクワへ向かう飛行機内で昏睡
状態に陥いる事件があった。2020年8月20日のことであった。この邦訳はその2ヶ月後、
10月30日に出版された。毒薬は国際条約で製造も保管も禁止された旧ソビエト製の
化学兵器ノビチョクであった。この薬品は、触れたものの中枢神経を攻撃し、生命に
かかわる体の機能を停止させる。1993年にロシアも条約に署名しているが、
2018年3月、スクリパリ親子毒殺にも使われた。
西シベリアのトムスクで、ナワリヌイ氏が滞在したホテルに残されたペットボトル
からこの毒物が検出された。一時は命に関わる深刻な症状であったが、幸いドイツに
飛び、薬物専門の医師団の治療を受け、健康を取り戻した。
彼はロシア連邦刑務局の償還命令に応じ、1月17日に帰国し、空港でただちに拘束
され、日を置かず、2月2日に3年6ヶ月の実刑が確定し収監された。
逮捕直後に公開された動画「A Palece for Putin」は、1億回も再生閲覧された。
宮殿の映像は、ほんの少ししかなく、全編ナワリヌイ氏の訴えに使われている。
ナワリヌイ氏の帰国は、殺されに行くようなものだと思ったが、本書を読んでいて
この方が安全なのかもしれないと思い直した。プーチンから逃げる方が危険なのだ。
亡命オリガルヒのボリスも、バドリも、ヤングも、悲惨な最期を遂げた。
暗殺者の手から命を守るには、自前で大勢の私設ボディーガードを雇うほかなく、
資金をしめあげられて破産したら、刺客に狙われ跡を残さず消されてしまう。
たったひとつの例外が、2006年に実行されたリトビネンコ殺害事件だった。
犯人が足跡を消すことに失敗したのは、放射性物質ポロニウム210を使ったから
だった。ふたりの刺客の足跡は、準備行動から殺害現場、逃走経路まで、放射能に
汚染された場所を追うことで、完全に把握することができた。
実行犯のひとりアンドレイ・ルゴボイは、「母国への奉仕」に対して、プーチン
から直々に勲章をもらい、ドミートリー・コフトゥンもロシアで生きている。
しかし、イギリスの科学者は判決直前にうつ病になり、判決後に死亡した。
リトビネンコの症状は当初不明であった。その死因を特定したのは英国の名高い
科学者マシュー・バンチャー博士であった。その重要参考人の博士が自殺した。
ポロニウム210は、ロシア政府の委託により、バンチャー博士が長年ロシアで
調査分析してきた物質だった。ウラル山脈の奥深くに残された冷戦時代の核実験場に
あるマヤークの核施設で、博士は核の汚染レベルを分析する仕事をしてきた。
その研究成果でリトビネンコ殺害の毒物が解明され、放射性物質の足跡によって、
精緻な検証が行え、これらの物的証拠が、有罪判決を引き出す決定打となった。
2015年12月、いつものようにマヤークでの調査から帰国した博士は、急に極度の
うつ病にかかった。そして2016年5月、自殺(とみせかけた変死状態）で発見された。
もう気づかねばならない。材料は山ほど出そろっていた。
2013年3月23日、ベレゾフスキーが浴室で不審な死を遂げ、2014年12月8日には、
ヤングが狭い窓から転落死した。2015年11月4日、ミハイル・レーシンが渡米して、
ワシントンDCで司法省と面談する前夜、ホテルで撲殺され死体で発見された。
2016年1月、王立裁判所でリトビネンコ殺害をプーチンの指示と認める判決文が
読み上げられたこの歴史的瞬間、イギリスは目覚めなければならなかった。
だがテリーザ・メイは下院での演説で、ロシアに対して報復行動を起こすつもりは
ないときっぱり否定した。シリア危機解決とISの脅威との戦いにプーチンの協力を
必要としているときに、彼を敵にまわすことはイギリスの利にならないと説明した。
ダボス会議に出席していたデイヴィッド・キャメロンも、判決文を受けてロシアに
どのように対応をとるつもりかと訊かれ、テリーザ・メイと同じ考えを示した。
「シリア危機を解決するためには、彼らとある種の協力関係を保つ必要がある･･･
だがはっきりした目と非常に冷たい心を持ってそうする」
こんな誤ったメッセージを首相が発信しても、すでに何の効果もなかった。
何千ページにも及ぶ証拠は国立公文書館に移されたが、プーチンはクリミア半島を
占領し、ウクライナ東部攻撃を継続していた。
西側首脳は、ウクライナへの軍事行動でようやく目覚め、G8からロシアを外した。
2016年5月、バンチャー博士は前述の通りロシアの報復で不審死したが、博士の
死も不自然とは見做されず、ロンドン警察は、捜査を行わず自殺と断定した。
調べるべきことは山ほどあった。博士がロシアから帰国して、いきなりうつ病を
発症したのはなぜか。原因は一体何だったのか、自身で刺したにしてはあまりにも
力強い遺体の深い傷が外敵によるものではないと、どうして言えるのか、遺体の発見
状況から、検死官は何を根拠に、自殺と断定したのか。
そしてまた、ロンドン警察をあざ笑うかのようにスクリパリ親子の事件が続いた。
本書の冒頭はこの事件で始まっている。その部分を以下に編集して引用する。
《2018年3月4日の日曜日、ソールズベリー大聖堂の見える公園でベンチに座っていた
男女、66歳のセルゲイ・スクリパリと33歳の娘ユリアが、ぐったりして意識を失い
かけていた。かつてMI6（英国秘密情報部)のために働いていたスクリパリ親子への
暗殺未遂であった。ロシア軍の諜報機関の幹部だったスクリパリは、2006年に
イギリスに極秘情報を売り、300人に及ぶロシアのスパイの身元を明かした罪で捕まり
ロシアで投獄された。その4年後、アメリカの都市郊外に潜入していたロシア人スパイ
10人が摘発され、モスクワ返還の交換条件として、西側に協力して捕まったほかの
3人のスパイとともにスクリパリが釈放された。スバイの交換はウィーンの空港の
滑走路で行われた。だがスパイが故国に戻るやいなや、ウラジーミル・プーチンは
国営テレビで、マタイ伝27章のユダを引用し、このように宣告した。
「裏切り者は死ぬことになる。約束する。彼らは友を裏切り、戦友を裏切った。
裏切りの報酬に何をもらったにせよ、その銀貨30枚で喉を詰まらせるだろう」
その宣告通り、郊外にあるスクリパリの自宅ドアの取っ手に化学兵器ノビチョクを
なすりつける殺害計画が実行された。公園にいて親子を救出して接触した都合21人も
とばっちりを受け、神経剤による症状を見せた。イギリス中が騒然となった。
ロシアのスパイたちは、すでに2013年からスクリパリ一家に目をつけていた。
娘ユリアのメールアカウントはハッキングされ、イギリスに移住して数年のうちに、
セルゲイの妻と息子が不慮の死をとげていた。
スクリパリ親子殺害未遂に対する西側の反応は、クレムリンのその男にとって、
この上ない贈り物となった。事件から2週間後の3月18日にロシア大統領選挙が控えて
いて、有権者の支持を集める必要があったのだ。たいした対抗馬はいなかった。
野党の表看板アレクセイ・ナワリヌイはくり返し攻撃されたあげく、選挙運動中に
収監され、結局出馬を禁じられた。かつてプーチンの一番の対抗馬だった、
ボリス・ネムツォフは3年前にクレムリンの橋の上で射殺されていた。
選挙結果は決まっていたが、手堅い得票率は必須だった。経済制裁で悲惨な状態に
ある国の経済や、はびこる汚職、崩壊しかけた社会インフラ、慢性的な資金不足の
公共サービス、欠陥だらけの教育制度から国民の目をそらさなければならなかった。
となれば、西側の敵の脅威を強調し、母国の防衛ができるのは自分だけだと訴える
こと以上にいい方法があるだろうか》
《スクリパリへの攻撃は、西側という敵を名指しで攻撃する作戦に利用され、実に
効果的に働いた。イギリスがクレムリンを非難し、アメリカ主導のNATO加盟国が
それにしたがう姿だと、ロシア全体がヒステリーを起こし、目もくらむような
多種多様な陰謀説が、国の多数のデマサイトやフェイクニュース・メディア、
政治宣伝機関から吐き出された。いわく、イギリスはわざとスクリパリ親子を
意識不明にしてロシアを嵌める証拠をねつ造した。あるいはシリアの調停者ロシアの
評判を落とすためだ。2018年サッカー・ワールドカップ開催の権利を奪われた恨み
かもしれない。事件の黒幕はウクライナだ。ノビチョクはアメリカが開発したか、
旧周辺諸国から検査をおこなっている間に盗まれた。･･･
プーチンもイギリスの非難を「妄想でありナンセンス」と軽蔑を込めて無視した》
2018年3月18日、プーチンは77%もの票を得て勝利した。
だが事実はこうだった。
プーチンは初めて大統領に選出されたときから致死的な手段で敵を排除している。
1999年大晦日にクレムリンの頂点に立ってからというもの、意見を異にする政治家、
ジャーナリスト、活動家、離反者、捜査官、批評家たちがロシアの地で銃弾に倒れ、
毒を盛られ、車に轢かれ、爆弾で吹き飛ばされてきた。
西側の歴代の指導者たちは、うまく説得すれば、ロシアが法に従い、リベラルで
温かい世界秩序に入ると信じこもうとしたが、それは破滅的な誤解だった。
敵、裏切り者、反対勢力を効果的に抹殺するのがソビエト時代の国政であり、
それに半世紀以上も携わった国家保安機関から新たな大統領が誕生したのだから。
KGBはウィルス噴霧器、青酸カリ銃弾、リップスティック型拳銃、先端にリシンを
塗った傘など、驚くべき殺人兵器を生み出す毒物や武器の製造工場を持ち、
追跡不可能な殺人方法を編み出してきた。ロシア大統領はこの暗殺プログラムを
公的資金で復活させ、化学・生物兵器や向精神薬、未知の発がん物質、その他の検知
できない毒の研究開発を進め、国の内外に敵を追い詰める特別攻撃部隊を組織した。
特定人物の信用失墜を狙った情報(コンプロマード)を集めるハッキング、主要都市
全域にスパイを大量に送り込み、影響力のある諜報員のネットワークを築くなど、
ロシアの諜報活動を冷戦時代のレベルにまで引き上げた。
凶悪な組織犯罪集団に武器を提供し、強大なマフィアを保安機関に取り込み、国の
非公式ネットワークを拡大した。偽情報を流布するプロパガンダ製造者を育成し、
ソーシャル・メディアの「荒らし」や「釣り」のプロを集めて何百万という偽名の
アカウントを運用させ、外国の過激派やテロリスト、独裁者に資金をまわす非合法の
資金流通ルートを構築した。さらに防衛費を2倍にし、何千億ドルに相当する資金を
大々的に軍の近代化につぎ込んだ。2006年には、実質的に外国で国家の敵を殺す
許可をFSBに与える新しい法律まで制定した。
1999年9月、プーチンが首相になって1ヶ月未満で、アパートメント4棟が爆破にあい
300人が死亡した。その多くは子供だった。爆薬はFSBが所有管理するキソーゲンで、
この高性能化学爆薬はプーチンの関与がなければ持ち出せないものだった。
リトビネンコとフェリシチンスキーは2002年3月に「ロシア闇の戦争」を出版し
これを告発したが、世界は2001年9月11日の米国同時多発テロにすっかり目を奪われ
「テロとの戦い」を優先して、プーチンの犯罪を忘れることにした。
2001年9月11日の同時多発テロで、プーチンは大変な追い風を受けた。
「テロとの戦い」と称し、徹底的にチェチェンを攻撃すると同時に、マフィアとの
つながり、アパートメント連続爆破事件の真相を公表したリトビネンコを追い詰めた。
2002年7月、リトビネンコは二冊目の告発本「ルビヤンカのギャング」を発表した。
2002年10月、歴史家フェリシチンスキーが、アパートメント連続爆破事件の犯人と
されたゴチヤエフの声明文を公表し、犯行は別の男によるものだと明かした。
そして2002年10月、ドブロフカ・ミュージアム劇場で1000人の観客が人質になる
大事件が起きた。アンナ・ポリトコフスカヤさんはこの時、オペラハウス内に入り、
インタビューを行い、チェチェン独立運動家の主張を外部に伝えた。
世界中がその声に耳を傾け始めたその矢先、信じられない突入が決行された。
ロシア警察が過激派鎮圧を名目に、人質が大勢いるオペラハウスの中に殺人的な
量の昏睡ガスを投入したのだ。劇場内に注入された睡眠剤は強力で、呼吸困難のため
130人以上が窒息死した。そして昏睡し抵抗力を失ったチェチェン独立運動家は、
ひとり残らず銃殺された。しかしテロリスト40人のうち、ただひり死を免れた、
ハンパシ・テルキバエフという男がいたことは秘密にされた。
2003年4月、ロシアの古参政治家で、チェチェン人権侵害に反対し調査委員会を立ち
あげて調査してきたユーシェンコフがサイレンサー銃で3発撃たれ、射殺された。
その10日後、テルキバエフが現れ、自分は劇場占拠時、内部にいた、囮工作員で、
チェチェン独立運動家をそそのかした主犯だったとアンナ・ポリトコフスカヤさんに
明かした。またFSBの捜査官でクレムリンの顧問であるとも証言した。
テルキバエフが、なぜ命を差し出すような証言をしたのかは不明だが、取材した
アンナ・ポリトフスカヤさんがインタビューを公開した8ヶ月後、テルキバエフは
チェチェンで自動車事故に遭って亡くなった。
アンナ・ポリトフスカヤさんも、2006年10月7日の午後、自宅玄関前で銃殺された。
彼らの得意技で、モスクワ劇場占拠事件の真相は、またしても封じられた。
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2016年11月、判事の判決文を固唾を飲んで聞き入るマリーナさんの姿が感動的だ。
(人物解説)
【ボリス・ベレゾフスキー】
2000年1月、プーチンを大統領に押し上げたオリガルヒ(新興財閥)で、30億ドルの
個人資産を持つ世界九位の裕福な企業家だった。オリガルヒのビッグセブンはロシアの
富みの半分とすべてのメディアを所有していた。そのお金でエリツィン再選を果たした
ゴッドファーザーたちは、引き換えに国営だった重要企業の支配的持ち分を獲得した。
次にメディアを使いプーチンを当選させたが、直後に裏切られ、モスクワに資産を
残しロンドンに亡命。徹底攻撃を続けたが、資金を奪われ、追い詰められて変死した。
【ユーリー・スクラフト】
1996年にソプチャクの汚職を摘発した検事総長。
【アナトリー・ソプチャク】
老いたサンクトペテルブルグ元市長。プーチンは彼の部下で副市長だった。
パリでの逃亡生活から戻り、プーチンの大統領選では支離滅裂な選挙応援をした。
過去を知りすぎたこの老人は、2000年2月17日、カリーニングラードに招かれ、
3日後ホテルの部屋で死んでいるのが発見された。死因は心臓発作とされたが、同宿
したふたりの用心棒が軽い中毒症状で治療を受けたことの説明がつかなかった。
のちに、手口は電球になすりつけられた毒素によるものでKGBの古典的手法だと、
調査ジャーナリストのアルカージー・バクスベルが記事にした。ほどなく彼の自宅
ガレージで車が爆破された。たまたま車内にはいなかったが警告は伝わった。
【バドリ・パタルカチシュビリ】
ジョージア人でボリスの共同経営者。トビリシの現政権ミヘイル・サアカシュビリ
攻撃を続け、2007年11月の大統領選挙に出馬したが大差で敗退した。
2008年2月12日、ジョージアからロンドンに入りボリスらと会って歓談した後、
夕刻に気分が悪くなり二階の部屋にあがり、深夜11時、死亡が確認された。
この52歳の太った男性の死因は自然死と判定された。ボリスが委託した秘密資金を
含む多額の遺産は全部親族が受け取り、共同経営者を失ったボリスは一気に窮迫した。
【ミハイル・ホドルコフスキー】
資産価値150億ドルの大手石油企業〈ユコス〉のオーナー。政府の汚職を巡り
公の場でプーチンを攻撃。2003年10月に逮捕され、シベリア送りで10年の刑を受ける。
【ニコライ・グルシコフ】
ボリスがモスクワに残してきた元アエロフロートCFO。横領罪で逮捕され刑務所に
送り込まれた。ボリスは、彼を救出するため〈チャンネル1〉をアブラモビッチに
売却した。売却資金の移動は、モスとカーティス弁護士が中東経由で実現させた。
だが〈チャンネル1〉売却後も、グルシコフは釈放されなかった。脱獄をそそのか
され乗せられたグルシコフは、FSBに逮捕され、4年の刑期を務めることになった。
【ティム・ベル卿】
ベレゾフスキーのPR担当。モスクワの検察局にベレゾフスキーの保釈金を払う。
【ルスラン・フェミチェフ】
モスクワで活動したベレゾフスキーの金庫番。モスクワ市長買収に関与？
【アフメド・ザカエフ】
チェチェン分離独立派の指導者でボリス・ベレゾフスキーの協力者。
ロシア内に無数の情報源を持ち、チェチェン武装組織の仲間たちが嵌められた劇場
占拠事件の真相を暴く。リトビネンコとの共著「ロシア闇の戦争－－プーチンと秘密
警察の恐るべきテロ工作を暴く」を執筆。
【ユーリー・デュボフ】
ベレゾフスキーの古い友人。ベンツの輸入で稼ぐ自動車販売会社〈ロゴバス〉の
経営者。賄賂なしでは輸入許可が降りないサンクトペテルブルグで、ボリスに紹介
されたプーチン副市長の実力を知る。電話で用件を果たしたブーチンは接待も受けず
その場を去った。当時から、ちまちました賄賂ではなく最高権力者を狙っていた。
【ロマン・アブラモビッチ】
プーチンに寝返ったモスクワの大富豪。ベレゾフスキーから〈チャンネル１〉の
権利を買い取る許可を得た。のちにベレゾフスキーに訴えられたが、裁判では勝利し、
ボリスがモスクワに残した資産を奪い取った。裁判敗訴でボリスは打ちのめされた。
【ラファエル・フィリノフ】
ロシアの通信業界の大物。ベレゾフスキーに、プーチンの殺害予告の脅迫をこめた
Tシャツを届ける。送り主の名はルゴボイだった。
【ディーン・アテュー】
私立探偵社のメンバー。ルゴボイの怪しさを最初に見抜いた。
顧客のひとりが元KGB職員ビクトル・イワノフと取引をするので、身辺調査を
リトビネンコに依頼した。リトビネンコは、ロシアでの彼の近況調査をルゴボイに
依頼したが、ずさんな報告書しか得られなかった。しかたなく別の調査員を見つけ
8ページの報告書にしてアテューに再提出し満足を得た。リトビネンコは後日のため
ルゴボイに良い仕事の例として報告書のコピーを渡した。それが彼の命取りとなった。
【ビクトル・イワノフ】
サンクトペテルブルグの港でドラッグの密輸入ビジネスにプーチンを引き込んだ
当人。FSB組織犯罪対策班時代のプーチンの仲間で、その後もプーチンの一番の側近。
リトビネンコがアテューにあげた報告書で、アテューの顧客の〈ティトン〉社は、
即座に取引から手を引いた。
【アンドレイ・ルゴボイ】
〈チャンネル1〉時代のボリスとバドリの警備主任。グルシコフに脱獄をそそのかし、
収監されたが、モスクワで刑期を終え、2006年1月23日、ロンドンのブレナム宮殿で
開催されたボリス60歳の誕生日パーティに、バスでやってきた。彼はボリスの人脈を
このパーティで調べ上げていた。
【コフトゥン】
ルゴボイの幼なじみ。モスクワの軍士官学校の同級生。ドイツでポルノスターを
目指して失敗し、10年ぶりに帰国したが落ちぶれ、皿洗いをしていた。偶然街で
ルゴボイに出会い、ロンドンでの仕事に引き込まれた。
【ティモシー・ワークマン判事】
ベレゾフスキーの政治亡命を認めた判事。2003年9月の審理の場で傍聴席にいた
ロシアの殺し屋がその場で逮捕され劇的に真相が判明した。殺し屋は国外追放される。
【ロバート・ワークマン元中佐】
退役軍人の元中佐。ワークマン判事と同名のためか、2004年1月、自宅で射殺される。
マフィアの手下への殺害指令ミスと思われる。
【クリストファ・ドチャーティー=パンチョン】
別の殺人罪で服役していたが、獄中でワークマン元中佐を撃ったのは自分だと告白。
2012年11月殺人罪で起訴されたが、本件の雇い主は明らかにしなかった。
【ハンパシ・テルキバエフ】
数多くの武装組織に出入りする胡散臭い人物。噂では劇場占拠事件後まもなく、
ほかの武装集団の前に現れ、事件を仕組んだことを自慢していた。囮工作任務継続の
ためか現場からただ一人殺されず放免された模様。
ポリトコフスカヤさんに、ユーシェンコフ殺害事件の10日後、自分が劇場にいた
ことを認め、自分はFSBの捜査官で、クレムリンの顧問であると証言した。
なぜ命を差し出したも同然の証言をしたのかは不明。インタビューが公開された
8ヶ月後、テルキバエフはチェチェンで自動車事故に遭って亡くなった。
【パトリック・アダムス】
組織犯罪モスクワ・マフィアのゴッドファーザー。
【モブラディ・アトランゲリエフ】
モスクワのチェチェン系マフィアのゴッドファーザ－で犯罪界の大物。
ベレゾフスキーを暗殺すべくロンドンに行ったが失敗して逮捕された。モスクワに
戻った彼は、その6ヶ月後、凍えるような冬の夜、ふたりの男に縛られ、車で連れ
去られ、森の中に運ばれて至近距離から撃たれて死亡した。
【スコット・ヤング】
ベレゾフスキーの手下となったイギリス人。海外で銀行強盗などをして大金を得た。
ボリス・バドリのフィクサーとして大金を動かし、日夜豪快な遊びにふけったが、
〈プロジェクト・モスクワ〉(大規模不動産開発)で破産した。離婚訴訟で10億ドルの
隠し資産を捜す妻ミシェルが、私立探偵を雇い監視していた中、謎の転落により
死体で発見される。転落直前に、ふたりの娘、サーシャとスカーレットと交わした
楽しそうな会話が録音されており、自殺にしては謎が多すぎる死亡だった。
【ジョナサン・ブラウン】
魚売りの実業家。フロリダでヤングと知り合い意気投合した遊び仲間。イートン・
スクウェアのタウンハウスに３部屋を借り、ベレゾフスキーを加え3人で住む。
〈プロジェクト・モスクワ〉に出資し、3人で事業に着手した。
【スティーブン・モス】
ベレゾフスキーの代理人。カーティスの旧友で共に働く弁護士。友達と競馬を
楽しんでいたが、その3日後、46歳で心臓発作で急死。自宅は何者かに家宅侵入され
コンピュータが持ち去られた。以後仲間の弁護士カーティスに脅迫電話続く。
【スティーブン・カーティス】
イギリス人弁護士で、資産隠しの専門家。モスの死後、脅迫されて命を狙われる。
2004年3月3日、買ったばかりのアグスタ製ヘリコプターに初搭乗し、パイロットと
共に墜落死。その2週間後、プーチン大統領は71.9%の得票率で再選を果たした。
当選直後、トニー・ブレアはプーチンに祝福の電話をする。
【ユーリーゴルベフ】
カーティスの仲間の弁護士。ホドルコフスキー逮捕後〈ユコス〉防衛戦に務める。
クレムリンがでっち上げた何十億ドルもの追徴課税で破産し、ロンドンに移住して
暮らしていた。モスクワ経由で帰国した2007年1月7日、自宅で心臓発作で死んでいる
のを発見された。死亡年齢は64歳だった。
【アレクサンドル・ペレピリッチヌイ】
ロシアの金融家。2012年11月10日、早朝にパリからロンドンに帰国し、その日の
午後、ジョギング中に倒れ、急死した。マネーロンダリングの達人で、クレムリンが
からむ大規模な不正行為を告発した。
【イッサ・アル=ゼィディ】
ペレピリッチヌイが不正を告発した中心人物。彼が所有する秘密ネットワークに
不正な資金が流出していた。セィディはシリアの化学兵器開発計画の表看板である
ことが後に判明した。クレムリンから、バッシャール・アル=アサドに流れる資金
ルートは10あまりの国にわたり、事件に関与した49人に制裁が発動されたが、
イギリスだけは本件の捜査を拒んだ。
【ビル・ブラウダー】
経営する複数の企業がわざと巨額の損失を出して、2億3000万ドルの不正な税の
還付を受けていたことを突き止めた。クリューエフと内務省の中佐が結託していた。
【セルゲイ・マグニツキー】
ビル・ブラウダーが経営する企業を調査し、税還付不正を特定した37歳の弁護士。
ロシア当局に逮捕され1年近く拘束されたが口を割らず、358日に及ぶ最悪の虐待の
のち、2009年11月、獄中で死亡した。
【ガレス・ウィリアム】
暗号解読の天才で31歳のスパイ。2010年8月、施錠した室内で死体で発見された。
殺人課のコリン・サットン主任警部は、MI6に妨害され、殺人事件の捜査ができず、
死因は自殺と判定された。
【ゲルマン・ゴルブンツォフ】
45歳の銀行家でイギリスに政治亡命をはかったが、2012年3月、暗殺者が発射した
サイレンサー銃で4発撃たれて倒れた。彼はかろうじて生き延びた。
【ポール・キャッスル】
大金を動かす不動産業者。ヤングといっしょに行動する仲間。2010年11月のある朝、
ロシアがらみの犯罪組織の用心棒に押し入られ、オフィスから逃げ出し、ボンド・
ストリートの地下鉄駅で、列車の前に手を広げて身を投げた。ヤングの友人で
1人目の犠牲者となった。検察官は自殺と断定。
【ロビ－・カーティス】
大金を動かす不動産業者。ヤングといっしょに行動する。ベレゾフスキーとも会食
するクラブの仲間だった。2012年に地下鉄のキングスベリー駅のホームから列車の前に
身を投げ命を落とす。ヤングの友人2人目の犠牲者。検察官は自殺と見なす。
【ジョニー・エリチァオフ】
大金を動かす不動産業者。ヤングといっしょに行動する仲間で3人目の犠牲者。
ふたりが死んだ2年後、石油取引の壊滅的な失敗で資産をすべて失ったのち、
ロンドンのショピングセンターの屋上から身投げして死んだ。
【ユーリー・ルズコフ】
モスクワ市長。ヤングがクルィシャ(みかじめ料）を渡した相手だが、本人は汚職
関与を否定。個人資産10億ドルの女性と結婚している。アメリカ当局の公電では、
「モスクワ中のもうかる建設契約について、賄賂や裏取引に手を出す」黒幕。
【ポティエフ大佐】
アメリカ在住の二重スパイ。バージニア州ラングレーからフロリダに移動し、
身を隠したが、2010年11月、第二のメルカデルがすでに送られたとモスクワ高官が
もらし、ポティエフ大佐が暗殺されたと報じられた。その3ヶ月後、偽装死であった
ことが判明した。暗殺ターゲットを安全にするCIA流の保護手段と見られる。
アメリカには100人近くの亡命者がかくまわれ、24時間体制で保護されているが、
それでもプーチンの刺客を防ぎ切ることは出来ず、こうした手法が使われるようだ。
【アレクサンドル・リトビネンコ】
2000年11月1日、ロンドンに亡命。MI6と協力。2006年10月末、放射性物質の
ポロニウム210をもられ50日の闘病後に死亡。病院のベッドで撮影された写真と、
11月21日付けの声明文でプーチンを告発し、そのメッセージは世界に届けられた。
MI6との仕事では、スペインのハンドルネーム「ホルヘ」に、ロシア政府、諜報
機関、犯罪組織がプーチンのもとで「マフィア国家」を形成していることを伝えた。
その2年後、スペインで一斉検挙が行われ20人のメンバーが逮捕され、タムボフ・
ギャングと共謀していた12人の主要な容疑者が逮捕された。
【セルゲイ・ユーシェンコフ】
ロシアの古参政治家。チェチェン人権侵害に反対しユーシェンコフ調査委員会を
作る。ロシア軍がレイプや拷問や大量殺戮を繰り返していることを調べあげ、人権
擁護団体に伝えた。2003年4月、サイレンサー銃で3発撃たれ、射殺される。
2ヶ月後の2003年6月、プーチンは国賓としてイギリスに招かれブレアに歓待された。
【ユーリー・シェチコーヒン】
ユーシェンコフの調査委員会の主要メンバー。ユーシェンコフ殺害の3ヶ月後、
謎の内蔵機能不全を発症し16日後に死亡。FSB病院での検死記録を見ることは許されず
有力なメンバー2人を失った委員会の調査は完全にストップした。
【タニア・モロゾワ】
31歳。母親をモスクワの爆破事件で殺された。ユーシェンコフ調査委員会に参加。
【ゴチヤエフ】
ジョージア人。アパートメント連続爆破事件の容疑者にされ逃亡中だったが、
パリでフェリシチンスキーと落ち合い無実を証明する手書きの声明文を手渡した。
【ユーリー・フェリシチンスキー】
ロシアの聡明な歴史家で、リトビネンコの協力者。ユーシェンコフ調査委員会の
公聴会で、ゴチヤエフの手書き声明文を公表し彼が無実であることを伝えた。
【ウラジーミル・ロマノビッチ】
アパートメント爆破の真犯人。FSB捜査官でトレパシュキンの元同僚であった。
目撃者によって最初に描かれた似顔絵の男だったが、証言を得る前に自動車事故で
命を落としていた。ミハイル・レーシンの締め付けで報道統制が行き渡り、別に立て
られた、ふたりの容疑者が終身刑となる。
【ミハイル・レーシン】
ロシアのメディア帝王。のちにプーチンを裏切りワシントンDCに行くが、証言前に
ホテルで泥酔し撲殺されているのが発見された。
【ミハイル・トレパシュキン】
リトビネンコの協力者で元FSB職員。アパートメント爆破事件の被害者家族弁護士。
URPO(秘密の暗殺部隊)、FSB内の同僚に狙われた。ユーシェンコフ調査委員会で
単独で調査を続け、古い新聞を見つけ出し、爆破事件容疑者の似顔絵が、FSBの手に
よってゴチヤエフに差し替えられていた事実を突き止めた。目撃者はレフォルトボ
刑務所で尋問され、犯人はゴチヤエフだと供述させられていた。
10月に裁判が始まる前にトレパシュキンは逮捕され、4年の実刑で収監された。
同じ10月の夜、モスクワ劇場占拠事件が起き、彼の供述は忘れられた。
【マリオ・スカラメッラ】
イタリアの安全保障顧問。ロシアがらみの汚職の公式捜査をおこなう委員会に所属。
電話で、急ぎ会いたいとリトビネンコに伝え、昼食の場で、ほんの数日前殺された
ポリトコフスカヤさんが、ロシアの暗殺リストに載ってている、自分も載っていると
怯えながら語り、書類をリトビネンコに手渡した。その夕刻、ミレニアム・ホテルで
ルゴボイと会ったリトビネンコは、放射性物質をもられ、犠牲者となった。
【イーゴリー・ポリマリョフ】
国連国際海事機関のロシア代表。スカラメッラに2日後に会う約束をしていたが、
リトビネンコが毒をもられた2日前、オペラを観賞したあと、倒れて亡くなった。
喉の乾きで3リットルもの水を飲んでいた。検死官は肥大した心臓が死因と説明し、
遺族はそれを信じた。
【ダニエル・マグローリー】
ロンドン・タイムズのベテラン記者。リトビネンコの死を記事にして、NBCから
インタビューを受けた。このドキュメンタリー番組放送の5日前、突然脳出血で死亡。
【ポール・ジョイアル】
アメリカの安全保証問題の専門家。NBCの番組でインタビューを受けたもうひとりの
制作協力者だったが、番組放送直後、メリーランド州の自宅前で、ガンマンに撃たれ
重傷を負った。
【アンナ・ポリトコフスカヤ】
リトビネンコがロンドンに逃亡したあと、チェチェン独立運動を独自に追い続けた
ノーバヤ・ガゼータのジャーナリスト。チェチェン独立運動をプーチンはテロと認定
したが、ひるむことなくチェチェン迫害の実態、モスクワ劇場占拠事件の真相を
取材し、紙面で発信し続け、2006年10月7日の午後、自宅玄関前で銃殺された。
世界はとげとげしいプーチンのやり方に激怒し、そのニュースが世界に拡散した。
【ビクトル・ユシチェンコ】
ハンサムなウクライナの野党党首。2004年9月5日、毒殺されかけ顔がただれる。
不正な選挙で落選するも、2ヶ月続いた抗議デモで再選挙に持ち込み勝利した。
オレンジ革命が成功した2005年春、プーチンはKGB色を鮮明に出した。
《ソヴィエト連邦崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事、旧ソ連諸国独立は4000万人の
仲間を置き去りにする真の悲劇》と宣言、若者の組織ナーシの熱狂的支持を固めた。
【オレク・ゴルジェフスキー】
元KGB大佐でロンドン亡命中の古参。2006年7月に、サンクトペテルブルグで開催
予定のG8の前に、ロンドンタイムズに警告文を寄稿。
《秘密警察を使い暗殺部隊が組織されている。ロシア国防相セルゲイ・イワノフに
よると暗殺者リストはすで作成されており、(「反テロ法」が議会を通過し、国外に
いる国家の敵の殺害を認める）法律も制定された。7人の首脳が殺人の協同責任を負う
つもりがないなら、G8をキャンセルするか、この権力濫用に議長が抗議すべきです》
【セルゲイ・スクリパリ】
MI6のために働いた二重スパイ。2018年3月8日、娘ユリアと公園で毒殺されかかる。
【アンナ・チャップマン】
ロシアからアメリカに送られたスパイ10人を率いた魅惑的な女性スパイ。
アメリカで逮捕されたのち、スクリパリらとのスパイ交換で帰国した。
【アンドレイ・コンドラシェフ】
プーチンの選挙運動スポークスマン。
【レオニード・クチマ】
ウクライナ大統領。ボディーガードが録音した会話が流出。その中でキエフ政府の
拉致、殺害犯罪計画を語っていた。モスクワのタムボフ・ギャングとプーチンの
つながりも言及。リトビネンコがこの音声を分析し文字起こしをした。
【ニコライ・パトルシェフ】
リトビネンコ殺害事件当時の、プーチン配下のFSB長官。
