白須賀（汐見阪）

箱根と同様に，坂道を利用して大名行列の様子を描く．
遠くに見える海は，旅人が京から来て始めて見る遠州灘(太平洋)の景色だ．
Ｕ字型に区切られた空間に海を配置し，水平線を上手く処理した構図は，なかなかのものだ．久しぶりに出会う感動の海だが，白須賀宿に住む人々にとっては，古来津波に悩まされた海でもあった．
白須賀は宝永4年(1707)に津波被害で壊滅した歴史を持つ．その頃まで宿場のあった所は元白須賀と呼ばれ，宿場は津波を避けるために岡の上に移動した．
それで，白須賀宿は潮見坂の上にある．津波の恐怖が残る江戸後期の白須賀住民が，海岸付近に住居を作らなかった事情があったのだ．
そのため，広重の絵では，ずっと海岸まで民家は一軒も見えない．

<白須賀元絵>
潮見坂の下，海岸近くに民家が何軒もある．これらが江戸期に実在した可能性は極めて低い． 白須賀住民が，海岸付近に住居を作らなかった事情を知らず，適当に民家を描き加えたのだろう．