【ちりつもって山となる】
小さな努力も積み重ねるとやがて大きな山となる. 勉強も蓄財も, こうした物と 教えられました. カルタは大きな山の裾に少し雲がかかった絵になっています. インド古代の宇宙観があります．須弥山という世界最高峰を微塵に砕き塵にして， それを数えると大変な数になる．それだけの数の世界を過ぎて，その間に存在する土地 という土地を全てを集めて又塵にする. その塵の数の世界を過ぎて，その間の土地を また砕き塵にして勘定したらどれくらいの数になると思うか？と釈迦が弟子に問う． 弟子はとても私達には思惟不能ですと応える．無限の時間を図る手段として，こうした 比喩が出て来ます． この，ことわざは，仏典の比喩を裏返しにした形で登場しているように思います． ちりが積もって山になったのでは無く，仮に山を塵にしてカウントして見ろと言う話 がベースだったろうと理解しています. 試しに塵一つを10ミクロン四方と仮定し,1キロ四方に相当する体積の山に仕上げるに は, いかほどの塵が必要か計算してみました. 答えは10の24乗個になりました. 一億倍の一億倍の一億倍回，塵を撒くと山が出来ま す. 小さなちりの積み重ねと言ってもこの数字からは, とても山にはなりそうもあり ません. そう思って安心していると, どっこいミクロの積み重ねがやがて目に見える 形に拡大してくるから, 恐ろしい. 地球環境の汚染が叫ばれています. 最近ではオゾンホールが発見され見えない大気圏 の変化が序々に進んでいるようです. 地上では, 歓迎されざるゴミの山が次第に大きくなり, かつての平和島程度では, とてもまかない切れない, 大量のゴミが毎日発生しています. 10年前は単に空き缶公害程度でしたが, 今やゴミの分別回収は都市住民の最低マナー となりました. 出雲市では, 透明のビニール袋を配付して使用する側のモラルを刺激し 袋が余ると有償で買い上げるといった作戦を実施しました. 色々反対意見もあったようですが, 結果は大成功と聞きます. ちりつもって山となる前に, ゴミを出さない生活習慣を定着させねばならない世の中 になりました.
【地獄の沙汰も金次第】
カルタには頭に三角の布を付けた人が地獄の鬼の前にいて，お金を積み上げている姿 が描かれています．地獄といっても随分格差があります．八大地獄と言うくらいで刑の 種類別に各種リハビリコースが用意されているようです． ところで，この地獄の沙汰の内容ですが，買収が成功したとしても選択の幅が，いか にも少ない．火あぶり，それとも水攻め？とチョイスを求められても，どっちもイヤ としか言いようがない．針千本はお嫌いですか．それなら背中の皮をひんむくコース などいかがてしょうと提案されたって，やっぱり，どっちもイヤでしょう． 何とか耐えられるのは，熱帯地獄と極寒地獄が交互にあってサウナと水風呂とを往復 するような場所を紹介してもらう位でしょうか． 良く考えてみると地獄の沙汰にお金を積んでも所詮は地獄なんでしょうね． アメリカでは弁護士は地獄へ落ちると言われているそうです．ハネウェル訴訟で苦労 した古山さんがそんな事を仰っていました．地獄の存在を信じるか否かは，生きている 間の生活態度を規定する重要なファクターです．どうも今の政治屋さん達は地獄の存在 を忘れてしまい，どうせ金次第で一発逆転で天国を買収出来る，位にたかをくくって いるのでしょうが． 江戸時代に隠語で「地獄」がありました．裏町にある非合法の売春宿の事です． 四谷怪談ではお岩さんの妹が地獄に落ちていて，それが目当てでやって来る悪役二人が 迎える於大とかいう女と会話する場面がありました．若い子が良いか，それとも， 熟年がよいかと聞くのです．二人はそれぞれ若い子，熟年と応えて部屋で待っている のですが，結末は最初に登場した於大が一人二役で，体半分を若く作り半分を熟年に 作って応対して見せるという喜劇仕立てになっていました． 今時の新宿の上を行くしたたかな庶民の知恵が悪人を翻弄するおかしさがあります． その笑いの裏側に，苦海に身を沈める運命となったお岩さんの妹の未来も二重写しに なって，言い知れぬ不幸の重さが迫って来る構図なのです．ストーリーでは，この妹は やがて殺されてしまいます． こうした隠語の世界での「地獄」の沙汰は金次第であったでしょうから，案外この カルタ，大人だけが，含み笑いをする性質を秘めていたかも知れません．
